インナーブランディングと言葉の一貫性|企業の「人格」を表現する言葉の選択

企業ブランディングの本質とは何でしょうか。魅力的なロゴやキャッチコピーでしょうか、それとも洗練されたウェブサイトでしょうか。
もちろんそれらも重要ですが、真のブランディングは企業の内側から始まります。
社員一人ひとりが体現する理念と、それを表現する言葉の一貫性こそが、強固なブランドを構築する基盤となるのです。
インナーブランディングが全ての土台
社員インタビューや企業紹介を通じて会社の魅力を伝えようとする際、多くの企業が陥りがちな落とし穴があります。
それは、一貫した理念の浸透なしに表面的な情報発信を行うことです。
この問題について深掘りしてみましょう。
単なる人物紹介では企業の人格は見えない
企業紹介の一環として社員インタビューを掲載する場合、個々の社員の背景、やりがい、目標、働く価値観などを紹介することは確かに意味があります。多様な人材がいることを示し、読者に興味を持ってもらうきっかけになるでしょう。
しかし、これらの情報がバラバラに存在するだけでは、企業としての一貫した「人格」は現れません。Aさん、Bさん、Cさんそれぞれの魅力は伝わっても、「この会社の魅力」「この会社のブランド」には結びつかないのです。
共通点がブランドとなる
真の企業ブランディングにおいて重要なのは、「Aさん、Bさん、Cさんそれぞれで違うけれど、この部分は共通している」という点を見出すことです。この共通点こそが、会社の人格、つまり企業ブランドとなります。
インナーブランディングや理念の浸透が不十分な状態で社員インタビューを行っても、読者の印象は「面白そうな会社だ」「いろんな人がいる会社だ」という表層的なものにとどまります。「この会社に入りたい」という具体的な行動喚起には至らないのです。
理念を軸にしたヒアリングの重要性
インナーブランディングと理念浸透が実現している企業では、社員インタビューの質と一貫性が大きく向上します。理念を軸にすることで、個性的でありながらも統一感のあるメッセージを発信できるようになります。
理念に沿った質問設計
例えば、「お客様に愛情を持って接する」というビジョンやバリューを掲げている企業を考えてみましょう。この「愛のある会社」というブランドを表現するためには、社員インタビューでも理念に沿った質問が必要です。
- 「あなたにとって愛とは何ですか?」
- 「お客様にどのように愛を表現していますか?」
- 「お客様にどう寄り添っていますか?」
このような理念を軸にした質問をすることで、各社員の個性は残しつつも、企業としての一貫したメッセージを引き出すことができます。
個性と一貫性の両立
理念を軸にすることの大きな利点は、個性と一貫性を両立できる点です。
Aさん、Bさん、Cさんの背景や目標は全く異なっていても、彼らのやりがいが「お客様の笑顔を見ること」「お客様に喜んでもらうこと」というように共通していれば、「この会社は本当に愛のある会社なんだ」という印象を読者に与えることができます。
インナーブランディングができていない企業では「いろんな人がいるな」という漠然とした印象しか残りませんが、理念という軸があれば「いろんな人がいて、全員が愛を持っている。つまり愛のある会社なんだ」という具体的なブランドイメージを構築できるのです。
言葉遣いに現れる企業ブランド
理念が浸透している企業では、社員の言葉遣いや表現方法にもその特色が自然と現れます。これは社員インタビューだけでなく、企業の全てのコミュニケーションに影響を与える重要な要素です。
理念に沿った言葉の選択
企業のブランドや理念が明確になると、それに合わせた言葉遣いや表現方法も自ずと定まってきます。「愛のある会社」という理念を持つ企業なら、言葉の選び方やトーン・マナー(トンマナ)にも独自の特徴が現れるでしょう。
社員インタビューでは、その人にフォーカスするだけでなく、俯瞰的に会社のブランドも意識した言葉選びが重要です。「この人の愛はどこにあるのだろう」「この人の愛とは何なのか」という視点からヒアリングし、それをタイトルやキャッチコピーに反映させることで、一貫したブランドメッセージを発信できます。
写真や視覚表現にも一貫性を
言葉だけでなく、写真やビジュアル表現にも理念との一貫性が求められます。「愛のある会社」というブランドを表現するなら、単に明るく元気な笑顔ではなく、優しさや思いやりを感じさせる微笑みの方が適切かもしれません。
ポーズや構図、色調に至るまで、全ての要素が揃ってはじめて強固なブランドイメージが構築されるのです。
全てのコミュニケーションに一貫性を持たせる
インナーブランディングと理念浸透が実現すると、社員インタビューだけでなく、企業の全てのコミュニケーションに一貫性が生まれます。
ウェブサイトやSNSでの表現
企業の理念は、ホームページ、ブログ、SNSなどあらゆる媒体での言葉遣いに反映されるべきです。例えば「愛のある会社」というブランドなら、文章の語尾も変わってくるでしょう。
「〜です。」「〜ます。」という端的な言い方ではなく、「〜ですよね。」「〜だと思います。」「〜でした。」「〜でしょう。」というように、柔らかさを感じさせる語尾を選ぶことも考えられます。
言葉の選択で印象は大きく変わる
同じ内容を伝えるにしても、言葉の選択によって印象は大きく変わります。「今日は太陽が出ていて元気だ」という文章も、「今日は暖かい太陽が出ていて穏やかな日ですね」と表現すれば、より優しさや思いやりを感じさせる文章になります。
このように、理念に沿った言葉選びを全てのコミュニケーションに一貫して適用することで、「どこを見てもこの会社は愛がある、優しさがある、穏やかさがある」という印象を作り上げることができるのです。
理念浸透が言葉を変え、ブランドを形成する。そして適切な言葉選びにつながる。
言葉や文章は、企業の理念を表現するための非常に重要なツールです。適切な言葉選びによって、ブランドの成否が左右されると言っても過言ではありません。
しかし、それが効果を発揮するためには、前提としてインナーブランディングが機能し、理念が社内に浸透していることが必要です。理念浸透があってこそ、言葉遣いの一貫性が生まれ、強固なブランドイメージの構築が可能になるのです。
企業ブランディングを考える際は、まず内側からの一貫性を重視し、そこから発信する言葉にも理念との一貫性を持たせることを心がけましょう。それが、単なる個人の集合体ではなく、独自の「人格」を持った企業としての印象を確立する近道となるのです。
本記事は、弊社代表の音声配信「stand.fm」を記事化しています。
音声は以下のURLから視聴できますので、ぜひそちらもお聞きください。
https://stand.fm/episodes/67ebc8cc33fbd115e3d85886

名城 政也/Masaya Nashiro
琴線に触れる株式会社 代表取締役