小さな気遣いが大きなブランドを作る|言葉とブランディングの関係

某出前サイトでお弁当を注文したときのことです。配達された弁当に手書きのメッセージが添えられていました。
「ありがとうございます」だけではなく、「美味しく召し上がってください」というような一言が添えられていたのです。
この小さな気遣いに、私はブランディングの本質を見た気がしました。
言葉や文章、あるいは手紙を書くという行動が、どのようにブランドを形成するのか。一つひとつの気遣いや言葉が、確かにブランドにつながっていることを改めて感じさせる出来事でした。
組織としてのブランディングの重要性
個人の行動と組織の一貫性がブランド形成において重要な役割を果たします。単発的な親切さではなく、組織全体で共有される価値観がブランドとなるのです。
個人の行動からブランド全体へ
手書きのメッセージは、もしかしたらその日たまたま店舗にいたスタッフの個人的な取り組みだったのかもしれません。店長に「今日は暇なので、こんなことをしてもいいですか?」と聞いて始めたことかもしれないのです。
実際に私の知っている居酒屋では、紙のコースターにお客様一人ひとりへのメッセージを書くという取り組みをしていました。このような一つひとつの行動や言葉が、ブランドを作っていくのです。
こうした取り組みによって、お客様は「このお店は優しいお店だ」「お客様に寄り添ってくれるお店だ」と感じるようになります。単に「サービスがいい」という評価を超えて、お店の本質的な印象として定着するのです。
ブランディングは組織全体で
一人のスタッフが個人的に行っているだけでは、真のブランディングにはつながりません。「あのスタッフさんは優しい」「この曜日に頼むとこういう手紙がついてくる」というように、個人の良さや特定の条件での良さとして認識されてしまいます。
真のブランディングとは、組織全体で一貫して行われるものです。「あのお店で頼んだら、必ず手書きの手紙がついてくる」という認識がお客様の中に形成されたとき、それは強力なブランドとなります。もちろん、手書きの文字の雰囲気や内容は書く人によって異なるでしょうが、「必ず手紙がついてくる」という一貫性こそが重要なのです。
ブランドが生み出す競争優位性
言葉や行動によって形成されるブランドは、市場における大きな差別化要素となります。顧客の選択肢に新たな判断基準を提供するのです。
差別化要素としてのブランド
料理のジャンルだけで選ぶなら、天丼なら天丼の美味しいお店、焼き鳥なら焼き鳥の美味しいお店と、料理の味で勝負しているお店が多くあります。出前で食事を注文する際も、「今すぐ届けられるか」「食べたいものがあるか」といった基準で選ぶことが多いでしょう。
しかし、「美味しいだけでなく、お客様へのサービスが良いお店」という選択肢が増えることで、お客様の選択基準にもう一つのポイントが加わります。これこそがブランディングの効果であり、他店との差別化につながるのです。
ブランドの根本にある価値観
取り組みの背景には、「お客様に寄り添う」というブランドの軸があるのではないかと思います。手紙を添えるという行為は、間違いなく手間のかかることです。料理を作るだけでも大変なのに、店舗運営や接客、その他の業務もある中で、あえてその手間をかけるということは、それがブランドの一部として認識されているからでしょう。
「そんなことをしなくてもいい」と考えるお店もあるでしょう。一人ひとりに手紙を書いていたら時間がもったいない、時間を無駄にするから不要だと思うかもしれません。しかし、「こういうことをやってみました」「こういうことをやってもいいですか」という提案に対して「いいよ、やってみなよ」と応えられる組織文化。それこそが、言語化されていなくても、そのお店の姿勢やビジョン、ミッション、バリューとして機能しているのです。
言葉に現れるブランドの本質
ブランドの本質は日常の言葉遣いや対応の中に自然と表れるものです。意識的に選ばれた言葉が、ブランドの印象を形作っていきます。
言葉の端々に現れるブランド
ブランドが浸透し、理念が組織に根付いていると、言葉の端々や行動の随所にそれが表れます。「こういう言葉を伝えましょう」「こういう文章を伝えましょう」という方針があれば、それによって会社の印象が形成されていくのです。
今回は手紙やメッセージカードの例を挙げましたが、必ずしも手紙である必要はありません。店舗での接客でも、「ありがとうございます」だけで終わるのか、「ありがとうございます。またお越しください」と付け加えるのか、あるいは「ありがとうございます。またお越しください。美味しく召し上がってください」まで言うのか。この後に続く言葉によって、ブランドの印象は大きく変わるのです。
ディズニーとスターバックスの例
ブランディングの話題でよく挙げられるのは、ディズニーランドとスターバックスです。この2つの企業は、必ず「ありがとうございます」だけでは終わりません。何か質問をしたり、会話をしたりすると、「ありがとうございます」の後に必ず何かが付け加えられます。
コンビニのレジで「ありがとうございます」だけで終わるのとは対照的に、これらの企業では常に追加の一言があります。これは偶然ではなく、ブランドの一部として意識的に行われていることなのです。
もちろん、「ありがとうございます」だけでも問題ありません。その会社のブランドとして、あえてそうしているならばそれでよいのです。しかし、新たな印象を作り上げたいのであれば、この「後の言葉」が非常に重要になってきます。
ブランディングの実践と応用
ブランドは一朝一夕には形成されません。継続的な取り組みと、様々な場面での応用が重要です。
潜在意識に浸透するブランド
細かい言葉遣いや気遣いは、一度や二度では大きな印象を残さないかもしれません。初めてスターバックスやディズニーランドに行ったときには、特に印象に残らなかったかもしれません。
しかし、何度か通ううちに「ここではいつもこういう言葉をかけてくれる」「いつも『ありがとう』だけでは終わらない」と気づくようになります。そして「この会社はこういう会社なんだ」という認識が、潜在的にその人の意識の中に形成されていくのです。
あらゆる業種で活用できる考え方
この考え方は飲食店だけに限りません。例えば引っ越し業者でも、作業が終わった後に「ありがとうございました」で終わるのか、「まだお手伝いできることはありますか?」と一言付け加えるのかで、他社との差別化が図れます。
こうした一言が自然と出てくるためには、会社に理念やビジョン、ミッション、バリューがあることが前提です。「うちの会社のブランドはこうだ」「うちのビジョン・ミッション・バリューはこうだ」という軸があれば、それに紐づいたプラスアルファの言葉が生まれるのです。
一貫性のある小さな気遣いがブランドを作る
ブランディングとは、大掛かりなマーケティング活動だけでなく、日常の小さな言葉遣いや気遣いの積み重ねからも生まれます。それが組織全体で一貫して行われるとき、強力なブランドとなるのです。
お客様に寄り添う姿勢、それを表現する言葉の選び方、そして組織全体での一貫性。これらが揃ったとき、他との差別化が図れ、真のブランディングが実現します。小さな気遣いが、大きなブランド価値を生み出すのです。
本記事は、弊社代表の音声配信「stand.fm」を記事化しています。
音声は以下のURLから視聴できますので、ぜひそちらもお聞きください。
https://stand.fm/episodes/67e9261ce7249029404c2252

名城 政也/Masaya Nashiro
琴線に触れる株式会社 代表取締役